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2010年12月27日

 

数へ日の欠かしもならず義理ひとつ    富安風生

 

(かぞえびの かかしもならず ぎりひとつ)

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 特別に世話になった人なのだろう。年の瀬の慌しさの中、他のことは不義理を

しても、そのことだけは欠かすことなく続けている義理。

具体的なことは何も言ってはいないけれど、「義理ひとつ」には

世話になった方が亡くなったあとも、その奥様への歳暮のご挨拶は欠かさずに

伺う、というような義理を想像させる。それは日本人の心からだんだんと薄れて

いきつつある義理ではないか。それほどに「ひとつ」の一語は、作者の特別な

思いを感じさせるのである。

 

 

 

2010年12月16日

 

しんしんと寒さが楽し歩みゆく     星野立子

 

(しんしんとさむさがたのしあゆみゆく)

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しんしんと寒さの募る日には、この句を口ずさむと元気が出る。

寒さの中にいると、体が縮こまってくるけれど、

この句は背筋を伸ばしながら、颯爽と歩いていく感じだ。

乾いた風がびゅうびゅうと吹きつけてくる寒さではなく、

少し湿り気があって、身に吸いつくような冬の寒さ。

「しんしん」というあたりに、そんな寒さを感じさせる。

それにしても、「寒さが楽し」と素直に言ってしまうところがいい。

そして寒さが楽しいと言えることは、とっても素敵だ。

 

寒さを厭わず前を向いてしっかり歩いてゆく。

深読みする必要はないが、この句には立子の人生に対する

向き合い方が出ているように思う。

 

 

 

2010年12月 6日

 

短日や凭れ傾く本の背   由季

 

(たんじつや もたれかたむく ほんのせな)

 

 

 

 

 

2010年11月29日

 

引く波は見えず十一月の海     由季

 

(ひくなみはみえずじゅういちがつのうみ)

 

 

 

2010年11月14日

 

生きるの大好き冬のはじめが春に似て    池田澄子

 

(いきるのだいすき ふゆのはじめが はるににて)

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小春日和も今日あたりまでで、

来週からは天気も崩れて冷え込みが厳しくなるらしい。

 

この句も小春日和を詠んだ句だ。

冬のはじめの暖かさを、そのまま素直に言っている。

「生きるの大好き」も「冬のはじめが春に似て」も表現は子供みたいに

素直で無邪気な感じがするけれど、なんだかこの句は深いなあと思う。

子供でもなく、若者でもなく、ある程度人生を経験した人でないと

たぶんこの季節は選べない。

春の穏やかさでなく、夏の力強さでなく、秋の爽やかさでもなく、

ましてや冬の厳しさでもなく、冬に入りたての微笑むような陽気に

出会えた思いもかけぬうれしさ。

もちろん、小春の浮き立った気分が「生きるの大好き」と素直に言わせた

句と鑑賞してもいいのだけれど、冬のはじめが春に似ていると言った作者の

言葉の中に、どこか人生の面白さみたいなものを感じさせてくれるのである。

そしてその面白さが「生きるの大好き」という思いを輝かせているように思う。

 

 

 

2010年11月11日

 

小春日やりんりんとなる耳環欲し   黒田杏子

 

(こはるびや りんりんとなる みみわほし)

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立冬を過ぎて、穏やかな晴れの日が続いている。

「小春日」は冬の初めのころの春を思わせる暖かな陽気のことを言う。

ここ数日はまさに小春日だ。

俳句を始めた頃、「小春」という響きが冬の季語であることが新鮮だった。

そして冬の暖かさに「小春」と名づける昔の人の季に対する遊び心を

心憎いと思ったものだ。

「小春」は陰暦十月の異称。ほかに「小六月」とも言う。

陰暦の季節の表わし方は、表現が豊かだなとつくづく思う。

今の暦は分かりやすくて便利だけれど、やはりどこか味気ない。

 

掲句は「小春日」がとてもいい。もちろん「春」ではだめ。

ただ暖かい春では「りんりんと鳴る」が響いてこないからだ。

「りんりんと鳴る耳環欲し」という思いは、やはり小春の中にある

冬という季節と響きあっているのである。

 

 


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