ローマ三日目
ローマ三日目。予定では朝、ローマからウンブリアへ移動するはずだったが、急遽滞在を一日
延ばすことにした。きっかけは、昨夜のオペラ座の帰りに偶然、ローマで行われる文楽公演の
ポスターを見つけたことにある。演目は「曽根崎心中」。ちょうど翌日、翌々日の二日間、滞在して
いた家からほんの数歩のところにあるアルジェンティーナ劇場で行われるものだった。文楽はまだ
見たことがないという話をしたからかもしれないが、その日の夜に部屋に入ってきたpapàが
「せっかくだから明日の夜、文楽を見て、次の日にウンブリアに来たらいい」と言うのだ。自分は
一足先にウンブリアへ帰ると言う。突然の提案にすぐに答えを出すことが出来なくて、少し考える。
文楽を見ることを迷ったわけではない。文楽は見たいし、しかも歴史ある劇場に入れるというのも
魅力だったけれど、私の頭の中は、その翌日に一人でウンブリアへ向かわなければいけないという
予期せぬ不安にとらわれていて、即座に首を縦に振ることが出来なかった。一人での街歩きなんて、
どうということはない。大きなスーツケースを持ちながら、一人で長距離の電車移動をすることこそ、
私の一番避けたかったことだったというのに。。。papàと一緒に移動出来る!とすっかり安心しきって
いた私がこの提案をありがたく受け入れるためには、一人で行けるために必要な情報を仕入れる
アンテナを立て直さなければいけなかった。
朝、ローマに残ることを告げて、papàを見送るために一緒にテルミニ駅へと向かう。
翌日のために、列車の出るホームや切符の刻印場所など不安なことはすべて確認して、
何とかなりそうな気になる。うん、なんとか頑張ってみよう。
少し不安から解消されて、テルミニ駅からひとり、家へと帰るためのバスに乗り込んだ。
劇場のチケットオフィスが開くまでに、まだ間がある。せっかく出来たローマでの時間。少し街を歩く。
写真は左からサンタンジェロ城、屋上からの眺め、ヴィットーリオ・エマヌエーレ二世記念堂。
劇場の角を曲がり、大通りを5分くらい歩くとサンタンジェロ城が見えてくる。ローマ皇帝ハドリアヌスが
自身の霊廟として創らせたもの。プッチーニのオペラ「トスカ」でカヴァラドッシが囚われていた牢屋だ。
記念堂はイタリア統一の象徴。ヴェネチア広場の正面に聳えるかのような巨大な白亜の建造物。
中央には祖国に尽くした戦士の祭壇が置かれていて、その傍らを二人の衛兵が雨の日も雪の日も、
その祭壇を守って立ち尽くしているという。