くちびるを出て朝寒のこゑとなる 能村登四郎
(くちびるをでて あさざむの こえとなる)
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「朝寒」は朝方に感じる寒さのこと。起き抜けの部屋の空気や窓を開けたときの
ひやりとした風に、冬が近づいていることを感じる。
この句は、自分の声に冬の気配を感じた。真冬のように吐く息が白くなるほどでは
ないけれど、確実に冬へ向おうとしている秋と冬のあわいにある寒さ。
いつものように発した一語にその瞬間の移ろいが捉えられているのだが、
「くちびるを出て」の言い出しがなんとも巧い。ありありと実感を伝えてくれる。