ウンブリアへ ―旅の四日目―
四日目の朝、ローマは小雨。混雑しているバスを2台見送り、ようやくテルミニ駅へ
向かうバスに乗り混む。雨滴で曇った車窓。外の景色を見るともなく見ていたら、
曇りを拭うように少年が指で窓に文字を書きはじめた。
Ti Amo
イタリア語で愛してる、という言葉。その文字をハートで囲うと携帯で写真を
撮って、ささっと掌で消した。きっと彼女にメールで送るのだろう。ちょっとキザだけど
愛らしい。立派なイタリア男に成長しそうだ。
テルミニ駅に着く。ここから電車でウンブリアへ。
時間もまだ余裕があるしホームも確認したし、とすっかり安心していた私だったが、
ここでこの旅最大のパニックに陥ることに。念入りの確認が仇になって急なホームの
変更に対応できず、予定の電車に乗り遅れてしまったのだ。まずは到着時間に合わせて
迎えに来てくれるpapaにそのことを伝えなくては。。。。。
携帯の充電がもうすぐ切れそうで、焦る気持に追い討ちをかける。
何とか次の電車で向かうことだけは告げたものの、乗るべき電車に自信がない。
なにせ電車自体にどこ行きなのかの表示がどこにもないのだから、本当にこれでいいのか
ちっとも安心できないのだ。ホームにすでに到着しているそれらしき電車はまだがらんと
していて誰もいない。とりあえず乗り込んで人が来るのを待ってみよう。
ずいぶん待って、ようやく一人、修道女が乗ってきた。「この電車はペルージャ行きですか」
とすかさず尋ねる。「そうよ」と短く答えて微笑んでくれたその顔にようやく安堵して座席に
深く腰をおろした。とりあえずこれで少し気が抜けそうだ。出発したら車窓から目を放さず、
駅を降り過さないようにしよう。
車窓に下車駅のNALNIの文字が見えた。テルミニ駅からほんの一時間くらいの距離なのに
精神的な疲労の上に、出発が遅れたり、車両トラブルで止まったりということもあって、
長旅の果てにようやく辿り着いたような気持でホームに降り立った。遠くにpapaの姿が
見えている。安心して緊張の糸が切れたせいか、ちょっと泣きそうになる。言葉にならない
思いに表情が崩れる私の顔を見て、「子供みたいだね」とpapaは温かく笑っていた。