2011年2月 6日

成瀬巳喜男

 

昨日は世田谷文学館で成瀬巳喜男監督の映画

「めし」を観てきました。

今、「成瀬巳喜男の昭和」と題した企画展が開かれていて、

その関連イベントとして上映されたものです。

成瀬作品は、2年ほど前に勧められて「浮雲」を観て以来なので、

今回で二度目。なので特別なファンというわけでもなく、

実は、映画上映よりもその前にある川本三郎さんのトークショーが

聞きたくて、足を運んだのです。

川本さんは、かなり昔から成瀬作品のファンだそうで、

昔というのは、今みたいに評価が上がるずっと前、

編集者が誰一人成瀬の名前を知らなくて、彼について

書きたいという企画が編集会議で没にされるぐらい

世間でその名が埋もれていた頃からずっと好きだったそうです。

昔、映画評論家の淀川長治さんに一番好きな映画監督を

尋ねられたとき、迷わず「成瀬巳喜男です」と答えたら、

「やだ、あんな貧乏くさい」といって一掃されたという話、

あの、淀川さんの特徴のある喋り方をちょっと真似て言って

いて、思わず笑ってしまいました。

因みに淀川さんの好きな監督は溝口健二なんですって。

川本さんいわく、溝口作品は絢爛豪華、遊女や娼婦に生きる女の

世界。成瀬作品に出てくるのは普通の市井の女で対称的。

淀川さんがそうおっしゃるのも納得とのこと。私は溝口作品はまだ

見たことがないのですが、「鬼龍院華子の生涯」や「櫂」「吉原炎上」

とかの五社映画が好きなので、もしかしたら私も淀川さん派かも・・・

と思いながらも、川本さんの軽妙なトークに散りばめられる成瀬作品

の魅力も気になってしょうがない。

女優の使い方の話では、小津安二郎の映画の原節子は幸せな娘役だけれど、

成瀬作品に出ると途端に糠みそ臭くなるとか、田中絹代も溝口監督は遊女や

きらびやかな女として魅せるが、成瀬作品では苦難を乗り越えて懸命に働く

母親役(「おかあさん」)で出てくるとか。ふむふむ。なるほど。

 

川本さんいわく、成瀬作品のキーワードは

「貧乏」「金」「未亡人」

裕福ではなく、お金の話が多くて、必ず未亡人が出てくる。

これだけ見るととてもネガティブな感じがしますが、

川本さんが「明るい貧乏」と言っていたけれど、暗い話を笑顔で語るという

ところが、見ていてとても言いのだそうだ。

(これも納得。「めし」はこのキーワードがすべてが出てきた)

時代とともに貧しくもつつましく日々の暮らしを懸命に生きる人々

それをみじめったらしく描くのではなく、生活の折々の悲哀をたんたんと描いていく。

そこが成瀬作品の魅力。ということが、話を聞きながらじわじわと伝わってきた。

 

「めし」ではちょっとしたユーモアがいくつも散りばめられてあって、

それが見ている人の心をほっと和ませる。

三千代役の原節子が東京の実家に戻って、道でばったり子供を連れた

友人(戦争未亡人になっている)と再会してお互いの近況を話す場面が

あるのだが、ふと道に出ているチンドン屋を見つけて、

友人  「あのふたり、夫婦ね」

三千代 「あら、どうしてそんなこと分かるの?」

友人  「だって、歩き方があんなにそっくりだもの、夫婦じゃなきゃ

     あそこまで、揃ったりしないものよ」

ちょっと正確ではないけれど、こんな風な会話を交した後、

それぞれが見せた顔の表情が私はとても心に残った。

何気ない場面だが、その表情に二人の心の機微がうまく捉えられていると思った。

 

 

成瀬作品、次はさっそく「おかあさん」を観てみようかな^^

 

 

 

 


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