2011年2月10日

 

女身仏に春剥落のつづきをり       細見綾子

 

(にょしんぶつにはるはくらくのつづきおり)

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外は春雪の舞い降る冷え冷えとした堂内でこの像を仰ぎ見たのは

この立ち姿に脈打っているものを感じた。黒い乾漆が剥げて下地の

赤い色が出ている。そのことの生々しさ、脆さ、生きた流転の時間、

それらがすべて新鮮そのものであった

 

綾子自身がこの句について語った言葉。

初案は「伎芸天に春剥落のつづきをり」であったという。

伎芸天とは、奈良の秋篠寺にある伎芸天。

その姿を初めて目にしたとき私は言葉が出なかった。

薄暗い堂の中でずいぶんと長い時間伎芸天を見つめ、

そしてその間中ずっと、体の芯が疼いていた。

仏像を見て官能を刺激されるという体験はこれが初めて。

それほどに、伎芸天の姿は艶かしく、美しかった。

 

見えるものとして、また見えないものとして、剥落は今もつづいている。

 

あえて女身仏といったのはこの伎芸天への永遠の美しさへの讃歌である

 

綾子が「女身仏」としたことで、剥落はひときわ美しさと儚さを増したようだ。

ちょうど今頃だろうか。

春の雪が舞ふ最中の伎芸天に、私も会いに行きたくなった。

 

 

 

 

 


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