麻薬うてば十三夜月遁走す 石田波郷
(まやくうてば じゅうさんやづき とんそうす)
今日は十三夜。
旧暦の九月十三日にあたり、旧暦八月十五日の十五夜(仲秋の名月)の
後の月を愛でることから「後の月」ともいいます。
十五夜は中国で行なわれていた中秋節の月見の風習が日本に伝来したもので、
中国では今も月餅を食べながら月見の宴を盛大に行なっていますが、
十三夜を眺める風習は日本独自のものです。
十五夜、十三夜はそれぞれ供えるものにちなんで芋名月、栗名月(豆名月)とも
いいます。月を愛で穀物を供えて収穫に感謝するお祝いでもあったのです。
江戸の遊里では十五夜の月見をしたら十三夜も同じ場所で月見をしないと
「片見月」といって縁起が悪く嫌われたそうです。ですから、十五夜を遊里で
すごした人は必ずまた十三夜にも足を運ばなくてはいけない。
なかなか上手いことを考えるなと思いますが、とっても風流で粋(いき)ですね。
遊里でなくても、どちらも愛でるという対を重んじる心がそこに感じられます。
十五夜は愛媛の松山で無月の空を仰ぎました。
十三夜は東京。雲が切れてくれるといいのですが。
病床で詠まれた波郷の句。
麻薬は痛みを抑えるためのモルヒネ。
朦朧とする意識の中でとらえた十三夜の月が壮絶です。