秋冷やモローの白き一角獣 天野小石
(しゅうれいや もろーのしろき いっかくじゅう)
ひんやりと身につのり来る大気とモローの描く一角獣。
画家ギュスターヴ・モローは聖書や神話を題材に精神性高い
美しい絵を描いた。
――手に触れるものも、目に見えるものも信じない。
目に見えないもの、ただ感じているものだけを信じている――
ギュスターヴ・モロー
モローの言葉はその描かれた作品の数々を見れば、とてもよく分かる。
パリのクリュニー中世美術館に有名な一角獣のタペストリーがある。
モローの一角獣はそのタペストリーに触発されて描かれたという。
六枚のタペストリーすべての織りに暗示的な意味がたくされていて、
その美しさは見るものを魅了するが、タペストリーの一角獣はモローのそれと
比べると思いのほか可愛いらしい。
モローの一角獣はモローのものとして凛と幻想的な魅力を放っている。
秋冷がひたと寄り来るように、見ているうちにふっと心の中にまで入ってくるようだ。