2010年10月 8日

 

十棹とはあらぬ渡しや水の秋    松本たかし

       

 (とさおとは あらぬわたしや みずのあき)

 

「秋の水」は秋に重点があるが、

「水の秋」の重点は水。

どちらも澄んだ水に秋を感じているが、ニュアンスの違いがある。

 

前者は澄み渡った秋の清らかな水そのもので、

後者は清涼感溢れる水や水辺から感じる秋の風情。

大景から小景へと、小景から大景への視野の移行に違いを感じる。

 

この句は断然「水の秋」。

「秋の水」では川辺の風情が消えてしまう。

 

「十棹とはあらぬ渡し」がなんとも上手い。

舟頭が棹で川底を突きつつ舟を進めるが、十も突かぬほどで向こう岸に

ついてしまうほど川幅がせまいという、そんな渡しの情景を無駄なく

簡潔に表現している。表現にまで爽やかさを感じる句だ。

さわさわと川辺に揺れる芒や荻、水のきらめき、清涼な風。

舟上で感じた秋があますことなく詠まれている。

 

 


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