葛の花来るなといつたではないか 飯島晴子
(くずのはな くるなといったではないか)
山野に咲く葛の花。 街中ではあまり見かけることがなく、
葛の花といえば、
葛の花 踏みしだかれて 色あたらし。 この山道を行きし人あり
の釈迢空の歌が思い出されるように、どこかさびしい山路の風情がある。
葛の花の咲く頃になると思い出すこの句にも、胸をきゅっとつかまれるような
寂しさがある。
「来るなといつたではないか」
振り返りつつこの言葉を投げつける、厳しくもどこかさみしげな表情を思う。
越えて来てはいけない目に見えぬ一線がそこにあるかのよう。
「見てはいけない」「来てはいけない」という約束を
いくたびも破ってきたいにしえの物語にこの句もつながっている。
だからこそ、この句には一句の奥に言い知れぬ切なさがあるのだと思う。