2010年10月 6日

 

葛の花来るなといつたではないか   飯島晴子

 

(くずのはな くるなといったではないか)

 

山野に咲く葛の花。 街中ではあまり見かけることがなく、

葛の花といえば、

 葛の花 踏みしだかれて 色あたらし。 この山道を行きし人あり

 の釈迢空の歌が思い出されるように、どこかさびしい山路の風情がある。

 

葛の花の咲く頃になると思い出すこの句にも、胸をきゅっとつかまれるような

寂しさがある。

「来るなといつたではないか」

振り返りつつこの言葉を投げつける、厳しくもどこかさみしげな表情を思う。

越えて来てはいけない目に見えぬ一線がそこにあるかのよう。

 

「見てはいけない」「来てはいけない」という約束を

いくたびも破ってきたいにしえの物語にこの句もつながっている。

だからこそ、この句には一句の奥に言い知れぬ切なさがあるのだと思う。

 

 


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