秋の雲立志伝みな家を捨つ 上田五千石
(あきのくも りっしでんみな いえをすつ)
天高く広がる秋の雲。
空を仰ぎながら、己を顧みている。
立志伝とは志を立てて苦悩や葛藤の末に大儀を成し遂げた
歴史上の人物の伝記。
そういう人たちはみな志のために「家を捨つ」という。
「家を捨つ」という言葉が印象的で強く響くが、
家とはつまり故郷のことだ。
現代でも同じ思いを抱いている人は多くいるだろう。
作者もその中のひとりであった。
ただこの句からは、何かを為したいということだけではないもっと強いものを感じる。
それは、成功して故郷に錦を飾るというものではなく、
作者の中にある「風狂」へのあこがれのようなものなのかもしれない。
空高く広がって、はるか彼方にまでもたなびいているような秋の雲。
立志伝とその高き広がりが響き合うが、やはり「秋」の一語が切なさを誘う。