2010年10月 5日

 

秋の雲立志伝みな家を捨つ    上田五千石

 

(あきのくも りっしでんみな いえをすつ) 

 

天高く広がる秋の雲。

空を仰ぎながら、己を顧みている。

 

立志伝とは志を立てて苦悩や葛藤の末に大儀を成し遂げた

歴史上の人物の伝記。

そういう人たちはみな志のために「家を捨つ」という。

「家を捨つ」という言葉が印象的で強く響くが、

家とはつまり故郷のことだ。

 

現代でも同じ思いを抱いている人は多くいるだろう。

作者もその中のひとりであった。

ただこの句からは、何かを為したいということだけではないもっと強いものを感じる。

それは、成功して故郷に錦を飾るというものではなく、

作者の中にある「風狂」へのあこがれのようなものなのかもしれない。

 

空高く広がって、はるか彼方にまでもたなびいているような秋の雲。

立志伝とその高き広がりが響き合うが、やはり「秋」の一語が切なさを誘う。

 

 


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