2011年6月14日

 

さみだれの電車の軋み君が許へ       矢島渚男

 

(さみだれの でんしゃのきしみ きみがもとへ)

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電車に乗って、待ち合わせの場所へと向かう。

車窓を流れる雨の景色に目をやりながら、思うことはただ一つ。

「はやく君に逢いたい」

 

「さみだれ」は「五月雨」。梅雨に降る雨そのもののこと。

カーブにさしかかるたびに軋む電車の音が、逢いたさに逸る気持ちを

一層駆り立てる。「さみだれ」「軋み」が恋の最中の心中をあらわしているようで、

胸に響く。恋の初めは誰しもこんな思いをしたことがあるだろう。逢えることが

当たり前ではなく、そのひとときのためにすべてがあるように思えるような。

そして「君が許へ」。この言い方がとても好きだ。相手に対する気持ちがここにも

出ているように思える。

短歌と比べて俳句で恋愛を詠むのは難しいというが、この句を思うたびに

そんなことはけっして無いと私は思う。感情表現を一切入れなくても

「さみだれの電車の軋み」だけで充分思いが伝わってくる。

恋愛においても俳句の寡黙さが寧ろいいということもあるのだ。

 

 

 

 

 


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